症例ひとくちメモ 目次
●ぎっくり腰(いわゆる急性腰痛症)について
● エアロビクスとアネロビクスについて
● 転倒予防の工夫
●肩こり について
●サプリメント(健康食品)の害について
 
●ぎっくり腰(いわゆる急性腰痛症)について
一口にぎっくり腰といっても、整形外科医を受診される方が多いと思いますが、泌尿器科、外科、精神科、内科、産婦人科などが必要な場合もあり、補完代替治療であるはり、灸、マッサージ等に行かれる方も多いかと思います。
ここでは、入院設備を持たない整形外科開業医の立場から、ヒヤッとするケースも含めて話を進めます。まず、ぎっくり腰という言葉ですが、ぎっくり腰自体の定義はなく、急性腰痛の俗称です。症状の出るきっかけは、中腰の姿勢、重いものを持ったとき、ストレスがたまっていて疲れているときに動き回った場合などのときに、突然でてくるようです。大概の場合、2〜3日の安静で、長くても1週間以内に自然治癒するケースが多いようです。

まず腰椎捻挫と診断される場合もあるのが、腰、仙腸関節の関節包、腰部の筋肉の肉離れのような筋肉の筋違いから来る急性の腰痛で、いわゆる、ぎっくり腰になったケースの大部分がこれに当てはまります。安静にしていれば2〜3日、長くても1週間で治りますが、その間、動きが制約されますので、安静の時間が取れる余裕のある方は別ですが、早く痛みをとりたくて整形外科を受診した場合、腰の関節に麻酔と抗炎症剤を注射するとか、鎮痛消炎剤の服用、湿布、コルセット等の治療を行うのが一般的です。「ぎっくり腰になって1週間動けず、来られませんでした。」といわれる患者さんが見られます。治ればいいのでそれでも良いのですが、無理してでも整形外科に受診してもらえれば、その分早く治るというメリットはあると思います。

若い女性のぎっくり腰で比較的多いのが、生まれつき股関節の屋根のつくりが悪く、大腿骨の頭が外にはみ出している人で、股関節は痛みが出ないのですが、腰、仙腸関節にその分負担がかかって疲れたときなんかにおきるタイプで、治療は一般的なぎっくり腰と同様なんですが、治った後、自分で股関節の筋力増強トレーニングをしないと再発しやすくなります。この一般的に、すぐ治るぎっくり腰のほかに、患者さんにとって怖いぎっくり腰もたまに見られます。腰痛とともに、太ももから足のしびれや、痛みを伴うものは腰の椎間板というクッションが破裂したか、脱出した可能性があり、1週間で治る事はなく整形外科を受診したほうがよいでしょう。またこの場合、尿の出が悪くなったり、止まったりすることもありますが、このときは緊急に手術して圧迫をとってやらないと尿の排泄機能が正常に戻らなくなります。

次に、安静時にも痛みがある場合、腰が痛いということで整形外科を受診される場合も多く、患者さんにとっても、医者にとってもひやりとさせられることがあります。一番急を要するのは、解離性大動脈瘤で、ほとんどのケースで突然の腰背部痛が最初の症状です。高血圧の持病がある人で、安静時も痛みがある場合は血管外科、内科に早急に行ってもらいます。尿管結石の痛みは強烈ですが持続する痛みではないという特徴があります。急性膵炎の場合、たいてい上腹部の激烈な痛みが多いのですが、背部痛、腰痛が起きることもあり、この病気も致死的な病気でもあることから、すぐに内科に行く必要があります。

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●エアロビクスとアネロビクスについて
健康維持に運動は欠かせません。中高年は年齢とともに体力が落ちていきます。持久力を見る再大酸素量は20台をpeakとして年をとると落ちていきます。これは運動によってある程度防げます。マラソンをしている人は65歳でも45歳程度の最大酸素摂取量を維持できている人もいます。最大酸素摂取量は、成人病、心臓病と非常に関係が深いがあります。

アネロビックスはたとえていえば100mを全力で走ることです。いま中高年にはエアロビックスがより有効でしょう。 運動所要量(強度50%VO2 max)
年齢 最大酸素摂取量の目標値
(ml/kg/分)
目標心拍数
(拍/分)
1週間の合計
運動時間
(分)
男性 女性
20歳代 41 35 130 180
30歳代 40 34 125 170
40歳代 39 33 120 160
50歳代 38 32 115 150
60歳代 37 31 110 140
平成元年7月「健康づくりのための運動所要策定検定討会報告書」
(村山ら、1991年より引用)

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●転倒予防の工夫
寒冷地での高齢者の歩行は、アイスバーンの影響もあり、温暖な地域よりも工夫が必要です。65歳以上の3人に1人は転倒した経験があります。(アメリカ合衆国の統計)ここでは、皆さんに、転倒を防ぐための要点を示します。
転ばないコツ2005 http://tsurutsuru.jp/index.html
T転倒予防のための体操
ハーフスクアット、つぎ足歩行が有効です。夏季は、歩幅をできるだけ大きくとるのがよさそうです。身長ー100cmが歩幅の目標です。屋外でする運動としては、太極拳が有効です。個人差があるので、具体的にはその人に応じたメニューになります。


U家庭環境
浴室の滑り止めマット、照明を年齢とともに明るくする。寝室のbedの手の届くところに電話機を置くなどいろんな工夫が必要でしょう。

V 視力のcheck
見えなくなると当然、転ぶ確立が増えます。

W ヒッププロテクター
転倒した際、股関節の骨折を防ぐプロテクターがあります。医療機関からでも買えますし、販売元の帝人ファーマでも買えると思います。下がその見本図です。
 

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●肩こり について
肩こりは男性で、90%、女性で95%経験している痛みと、筋肉の張りです。2004年の国民生活基礎調査では、国民の25%が悩んでいる症状で、整形外科の症状の訴えとしては、腰痛の27%についで多い病気となっています。欧米では肩こりという概念はないのですが、よく首を回す人を見かけますし、マッサージ、鍼といった医療補完サービスはよく見られます。決して日本人特有の症状ではなさそうです。腰痛ではさほど性別での差は見られませんが、肩こりに関しては女性が男性の2,5倍悩んでいます。これは女性のなで肩が大きな原因と思われます。
肩こりのタイプ別分類

T:内科疾患から来る肩こり:よく知られているのは高血圧から来る肩の張りを脳、首の病気だと思い整形外科にこられる方です。整形外科で診察し整形外科の病気ではなさそうな場合に、治療されていない高血圧が見つかる場合もあります。それ以外に胃腸が弱い方、疲れやすい方なども肩がこりやすくなります。

U:ストレスから来る肩こり:几帳面な方もストレスを感じやすく肩が張った感じになります。女性では生理のとき、また仕事上一日中、デスクワークで、パソコンに向かって仕事をしている人も、肩がこりやすくなります。
パソコンでデスクワークをしている人はオーバーワークによるVDT症候群(visual display terminal syndrome)の可能性もあります。これは職場の環境も含めて産業医の診察、意見を聞く必要があります。産業医がない職場でしたら、整形外科を受診してみてください。

V:体型から来る肩こり: なで肩の人は首の周りの筋肉に負担がかかり肩こりの症状が出やすくなります。これが肩こりに女性がなりやすい理由だと思えます。女性は昔から、首が長いほうが良いとされています。実際、猪首にならないよう気をつけている若い女性が多く、国民生活基礎調査では、15歳から65歳では腰痛の訴えより、肩こりの訴えが多く見られます。肩こりの訴えも女性が高齢化する65歳以上では低くなります。肩こりは僧帽筋、肩甲挙筋といった、首をすぼめる筋肉が原因とされています。首をすぼめてやると、なで肩が治り筋肉の緊張が緩み一時的に肩こりが軽快します。ず~とくびをすぼめているわけにいきませんが‥‥。
生まれつき関節が柔らかい人も、肩がこりやすく、また腱鞘炎とか使いすぎの症状になりやすいです。これは全身関節弛緩症という遺伝の影響が大きい、病気ではない身体の特徴です。これは日ごろの有酸素運動が予防法になります。
また年齢がいった方でまぶたが重たくなる眼瞼筋の収縮機能の低下から起きる眼瞼下垂という症状からも肩こりは起きます。これは形成外科で治療を受けると肩こりの改善につながることがあります。ただ、眼瞼下垂には重症筋無力症とか、ほかの病気から来る場合もありえます。そういった病気がないことを医者にかかって確認しておく必要があります。

W
:肉体労働による肩こり:  重いものを担ぐ作業をしている人、力を使う作業をしている人にも肩こりはきます。これはストレッチが有効ですが、根本はオーバーワークにならないことですが難しいでしょうね‥‥。

X
: 整形外科の病気から来る肩こり: 一般に肩こりで整形外科を受診される方が多いと思います。この中には、姿勢、運動不足から来る筋肉の血行不足、有酸素運動不足から来るものが、当院での場合ですが、60%以上を占めます。実際、2004年の厚労省の身体状況調査の結果では、50歳以上から年をとるにつれて運動を習慣付けている人の比率は高く、70歳前後では、50%の人が運動の習慣を身につけています。それに反し、若年層では、たとえば、20歳代から30歳代の人の85%は運動の習慣がありません。これは有酸素運動不足による肩こりの原因になります。有酸素運動については当院ホームページを参照してください。
 整形外科の病気として、それ以外に、椎間板の炎症、首のヘルニア、肩が上がらなくなる症状などさまざまですが、肩こりの症状を訴え来院される場合が見られます。この場合は、整形外科で順序立てた治療が必要です。

Y
:その他の肩こりを起こす病気:たとえば怖い話ですが、心筋梗塞の始まり、狭心症、肺癌のリンパ節転移、悪性リンパ腫など至急治療を要す病気もあります。また、下痢、便秘、蓄膿症、更年期障害、歯痛、などからも肩こりは来るようです。1週間以上続く頑固な肩こりは、一度、医者にかかって診察を受けるほうがいいと思います。

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●サプリメント(健康食品)の害について
 「みのもんた」の司会で話題になった「思いっきりテレビ」でも、アトピーにアルカリイオン水が効くと、医療関係者を呼んで番組で説明し、アトピー患者さんを惑わした例があります。アルカリイオン水も、科学的に、アトピーに効くとは立証されていません。この場合も、アトピーの症状が悪化し、金銭的な損失が出たケースが見られています。最近でもやせ薬と言って、長期に飲み続け、肝障害を起こし死亡した例もマスコミに報道されています。こういった医薬品でない食品は、補完代替治療のなかで、健康食品(サプリメント)と呼ばれています。今回はこのサプリメントの害について述べてみます。
 
  補完代替医療と言いますと、ヨガ、気功、音楽療法といった物理的な療法と、サプリメント、ハーブ、漢方薬といった化学的な療法があります。サプリメントは化学的な補完代替治療です。大きく分けると、痩せ薬、健康食品、漢方薬に分けられます。
漢方薬は保険適応されているものは薬事法で管轄し安全調査に責任を持ちますが、健康食品は、食品に分類されます。食品はアレルギーに効くとか、関節痛が治るとか効能・効果についての表示はできませんが、体験談は載せても良いことになっています。体験談や、CMで健康食品の宣伝をしている会社が多いようです。宣伝を聞いた人に一種の錯覚を与えて購入を促す商法です。健康食品を信じている人そのものが、一種の錯覚で、科学的な根拠を求めている人はないはずですから、この商法もマルチ商法は別ですが、法的には違反していません。健康食品自体を信じて購入することに対しては本人の責任ですし、批判を受けることはないと思います。ただ、サプリメント、健康食品の品質に問題が出たり、体に害を及ぼす場合がある時は、一般の人に周知しないといけないと思います。具体例をあげてみます。
今、テレビをつけると、グルコサミン、コンドロイチンのコマーシャルが始終、流れています。これについて、 国民生活センターで「関節に良いとされる成分を含む健康食品」の商品テストが2008年行われ、その結果の資料ですが、まずコンドロイチンに関して成分量が表示してある商品では、実際の含有量は大幅に少なかったとのことです。また、実際のコンドロイチンが表示と異なる原材料のケースも見られました。
(たとえばサメ由来と表示してあるが実際は別のコンドロイチン)健康食品では禁じられている関節の表示が、大多数で見られました。このように、コンドロイチン、グルコサミンが関節痛に効く、効かないは、議論のあるところですが、それ以前に、品質に問題があるということがわかります。
 やせ薬では、フェンテルミン(アンフェタミン誘導体)が重篤な肝障害が発症し肝移植を要する例が見られました。健康食品のアガリスクでは肝炎、プロポリスでは肝腎障害が報告されています。
 
  以上、皆さんが比較的知っている商品についてのみ、挙げてみましたが、健康食品を信じて使用するのは構わないですが、効果については科学的に証明されていない事、商品をよく吟味して使用しないと体に害を及ぼす場合がある事を知っておくべきでしょう。

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